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電気化学における基礎と応用を解説した内容です。
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その3:ポジティブフィードバックについて

前2回でポテンショスタットの話をした。今回はその延長です。ポテンショスタットの機能の1つにポジティブフィードバックがある。これは自分で選択するもので常に必要というわけではない。電解質溶液の電気抵抗が大きいときに生じる不都合を緩和させる目的で使うものである。

電解セルに電流が流れると溶液抵抗と電流値の積に比例した電圧降下が生じる。ポテンショスタットで作用電極を電位制御するとき、作用電極と参照電極の間の溶液抵抗に比例した電位降下分をポテンショスタットは認識できない。あくまで作用電極と参照電極の間に設定電位が印加されるのであって、電位降下分を含めたものであるから、実際には電位降下分が足りないかたちでしか作用電極には印加されない。これを未補償溶液抵抗と呼びRuと表記することが多い。

それを模式的に描くと図1のようになる。図では電流 i が流れている場合である。下付きのuはunkownに由来するがuncontrolableととることもできる。ポテンショスタットをもってしても、完全に制御できない。できることは後述するポジティブフィードバックによる、不完全な方法で対処することである。

未補償溶液抵抗(Ru)による印加電位の不足、W、C、Rはそれぞれ作用電極、対極、参照電極

この未補償溶液抵抗よって生ずる不都合は、例えばCV測定におけるピーク電位のずれやピーク電位幅の余分の拡がりである。ピーク電位のずれは、酸化ピークと還元ピークでベース電流の絶対値の大きさに差があるときは両ピークのずれが異なることになり、両ピーク電位の平均から見積もられるレドックス電位に微妙な狂いが発生することになる。またピーク電位幅から電子移動速度を計算する時に遅めに見積もることになる。このようなわけで、未補償溶液抵抗の影響を軽減することが必要になることがある。その方法がポジティブフィードバック(正帰還)である。

図2のように3つのopアンプで構成できる。前述したポテンショスタットの原型(2つのopアンプからなる)に足し算回路(op1)を加えたものである。電解電流(i)とRuの積(つまり未補償溶液抵抗による電位降下分)のある割合(f)を設定電位(e1)に足して補ってやるのです。

現今の市販の機器ではRuを測定する機能が備わっていて、測定者がポジティブフィードバックを選択すると勝手に測定してくれる。さらにフィードバック割合fを入力してやれば、あとはポテンショスタットが補償を実行してくれる。注意点はfをどう決めるかである。これをあまり大きくするとポジティブフィードバックであるから発振をおこす可能性がある。80%程度に抑えて設定するのが賢明であろう。これによって、相当程度の改善がはかられる。ポジティブフィードバックは完全ではないことをお忘れなく。
ポジティブフィードバックによるiR補償



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