資料室


3-7 リングディスク電極

NTT 厚木研究開発センターが開発したリングディスク電極は下図に示すガラス基板上に形成されたリングディスクタイプの電極です。電気化学 測定においては、ラジアルフローセル電極として用いて、ミクロ送液することによりクーロメトリックな電解効率が得られます。
この時、中心のディスク電極にて100%の酸化反応(還元反応)が行なえ、物質の同定と定量が一度にできることや、後続化学反応の解析ができるなどの特徴があります。本電極上にテキサス大学のアダム・ヘラー教授が開発したオスミウムゲル/HRP(Horse Radish peroxidase)を固定化すると、過酸化水素を0 Vにて測定でき、各種酸化酵素と組み合わせることによりフローインジェクション分析システムを構築できます。

例)フローセル電極としてリングディスク電極を利用

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リングディスク電極の構造
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ラジアルフローセルへの電極固定

電極種類:カーボン、金、白金の3種類
ディスク電極直径:3 mm
リング電極外径:6 mm / 内径:4 mm
電極厚み:0.05~0.15 µm程度


1) リングディスク電極によるアンペロメトリックへの応用例

リングディスク電極はHPLCの検出用電極として微量物質の測定に大変威力を発揮します。また、フローセル型センサーへの応用にも有効です。リングディスク電極は作用電極として内側にディスク部分が配置され、外側にリング部分が配置されます。
リングディスク電極をフローセルの中に入れるためには、

  1. シリコンガスケットをリングディスク電極の下に置きます。
  2. リングディスク電極の上にテフロンガスケットを載せます。
  3. 次にラジアルフローセルの中にリングディスク電極をセットします。
    ※この時、電極がカウンター電極に平行な状態にしてクランプを手で回して固定します。薄いテフロンガスケットだと、リングディスク電極とカウンター電極が接触し、電極がガラス基板から剥がれてしまうので、十分に気を付けて下さい。
    フローセルとして使用する場合、液を通さなくてはなりませんが、接触していると液が流れにくくなったり、ブロックされてしまいます。

<リングディスク電極の使用方法>

  1. リングディスク電極の裏面にシリコンプレートを貼り付けます。
    ※この時、シリコンプレートの円の部分と電極のディスクと合わせます。
  2. ガスケットをカウンター電極に取り付けます。
  3. リングディスク電極面をカウンター電極に向けて、前頁図の様に取り付け、クランプで固定します。
  4. リング電極とディスク電極にLC-4Cアンペロメトリックディテクターを用いて目的の電位を印加します。

2) リングディスク電極によるグルタメートの測定

丹羽等(1)はリングディスク電極に酵素を固定化し、マイクロダイアリシス等で得られたサンプルを直接モニタリングする技術を報告しています。特に、脳神経科学にて脚光を浴びている神経伝達物質の一つであるグルタミン酸のリアルタイム測定を行っています。

グルタメートは脳内海馬における記憶(長期増強)に関わりをもつと言われています。
方法としては

  1. ラジアルフローセルと酵素カラムを用いてオンラインセンサーを作製
  2. マイクロダイアリシス膜などのサンプリングプローブと組み合わせた培養細胞系での刺激に応答したグルタミン酸放出測定を行なう。
  3. 電極として3 mm、或いは6 mm径のガラス状カーボン電極、及びリングディスク薄膜炭素電極を使用。
  4. 酵素(グルタミン酸酸化酵素、ヤマサ醤油:GluOx)はビーズに固定化した後、ピークチューブに充填。
  5. 電極上にはメディエータとして西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)を含むポリビニルピリジン-Os錯体(Os-gel-HRP)を修飾(1)。

検出の模式図を図3-21に示します。

  1. グルタメートは酵素によって酸化され、発生した過酸化水素はHRPによって還元されます。
  2. 反応によって酸化されたHRPは電極からOsポリマーを介して電子が供給されることにより再び還元体に戻されます。
  3. 電極からの還元電流の大きさを連続的にモニターすることによりグルタメート濃度を測定できます。

    実際の測定は2本のシリンジポンプを使用し、一方で緩衝溶液、他方でグルタミン酸標準溶液を送液して行い、センサーの感度、検出限界等を評価しました。
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図3-21.センサーでの反応の模式図
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図3-22.センサーを用いた培養細胞からのグルタメート放出測定の模式図

測定試料としてラットエンブリオの大脳皮質神経細胞を薄膜電極アレイを有する基板上に培養しました。
図3-22に示すように薄膜電極を用いて電気的またはKClにより刺激し、マイクロダイアリシスプローブにより連続して細胞近傍のグルタミン酸をサンプリングし、センサーにより濃度変化を測定しました(図3-23参照)。

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図3-23.ラット培養細胞外液のグルタメート濃度変化
  • 参考文献
    (1) O. Niwa, K. Torimitsu, M. Morita, P. G. Osborne and K. Yamamoto, Anal. Chem. 1996, vol 68, No11, p1865-1870

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